東京西法律事務所

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2016年3月23日水曜日

空家と相続放棄について(後編)

後編では、メディア原稿で割愛した話の中から、私が特に重要と思うことをブログをご覧の皆様にお伝えします。

まず第1に、相続放棄により空家を手放す際に、なぜ相続財産管理人を選任する必要があるのか、という点を明らかにします。

相続人がいない場合、相続財産が国庫に帰属することをご存じの方は多いと思います。

しかしながら、実際には、相続人全員が相続を放棄したとしても、それだけで直ちに相続財産が国庫に帰属する訳ではありません

相続財産を国庫に帰属させるためには、裁判所に相続財産管理人を選任してもらい、その後、相続財産管理人が行う様々な手続を経る必要があります。

この手続の中には、以下の内容を官報に公告することが含まれています。

①相続財産管理人選任の公告(公告期間:2ヶ月)
→相続財産管理人が選任されたことを知らせるための公告です。

②相続債権者・受遺者に対する債権申出の公告(公告期間:2ヶ月)
→被相続人の債権者等に名乗り出るように求める公告です。

③相続人捜索の公告(公告期間:6ヶ月)
→相続人に対して名乗り出るように求める公告です。

要するに、相続財産を国庫に帰属させる前に、本当に相続債権者や相続人がいないかどうか確認するためのステップを踏む必要があるのです。

もっとも、相続人がいるかどうかは、戸籍謄本から確認することができるので、なぜ相続人捜索の公告が必要か、不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、戸籍に記載がなくても、実の親子であれば、法律上の親子関係が成立していることがあるのです。

そして、これらの確認は、「官報に公告を掲載してから、一定期間待って誰も名乗り出てこないことを確認する」という方法で行われます。

また、これらの公告は、同時に行われるのではなく、上記①~③の順に、先順位の公告の公告期間が経過した後に行われるのです。

従って、相続放棄を行ってから、相続財産が国庫に帰属するまでには、通常1年数ヶ月程度の期間が掛かります。

それでは、相続人全員が相続放棄をして、相続財産管理人の選任申立をしないと、どうなるのでしょうか。その答えは民法940条にあります。

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」(民法940条)
すなわち、相続放棄を行うと、次の順位の人が相続人になるのですが、次の順位の人が相続財産を管理することができるまで、相続放棄を行った人が管理義務を負うことになるのです。

それでは、相続人全員が相続放棄を行った場合はどうかというと、民法940条の解釈として、一般に、「相続財産管理人が相続財産の管理を始めることができるまで、最後に相続放棄を行った相続人が相続財産の管理を行う義務がある」と考えられています (参照:『相続法逐条解説(中)』中川淳(日本加除出版1990.10.15)184頁)。
つまり、相続人は、相続放棄を行っただけでは、相続財産の管理義務を免れることはできないということです。

もともと空家の管理責任を免れるために相続放棄をする以上、相続財産管理人を選任することが必須であるという結論になるでしょう。

第2に、相続放棄を行う際の注意点について触れたいと思います。

相続放棄を行う際、最も障害となりやすいのは、相続放棄前に相続財産の処分をしてしまうことです。

最もよくあるのが、亡くなった方の預貯金を引き出して使ってしまうケースです。

世間一般に、亡くなった方の預金口座が凍結されることをご存じの方は多く、「対策」として相続発生後に相続人が預金を引き出すケースが後を絶ちません。

しかしながら、亡くなった方の預貯金を費消することは、原則として(一応例外はあります)「相続財産の処分」にあたります。

そして、相続財産の処分を行った相続人は、相続を承認したものとみなされるため、相続放棄を行うことはできなくなります(民法921条1号)。

知らず知らずのうちに相続を承認してしまうことを避けるため、相続放棄を予定している場合は、予め相続人全員の間で「相続財産にはノータッチ」を周知徹底する必要があります。

また、うっかり預金の引出をしてしまった場合は、手遅れにならないうちに専門家にご相談されることをお勧めします。

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