東京西法律事務所

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2016年6月20日月曜日

セミナーを終えて

6月19日、当ブログにても告知させて頂きました「第7回 もしも講座」が、三鷹.市民斎場において開催されました。



当日は、40名近い方にご参加頂きました。

私は、「遺言書の書き方講座」の講師として、1時間にわたり、なぜ遺言書が必要なのかということや、遺言書の内容について具体的にお話をさせて頂きました。

終了後のアンケートでは、セミナーの内容について、「素人にもわかりやすかった」、「具体的に何をすれば良かったのか分かった」など、好意的なコメントを多数頂戴しました。

また、セミナーの修了後には、多数の方から相談予約のお申し込みを頂きました。

ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。

セミナーの内容が皆様のお役に立つことを願っております。

2016年6月7日火曜日

(メディア掲載版)「花押」記された遺言書、最高裁「無効」と初判断…なぜ高裁判決が覆ったのか?

先日のブログ記事を元に、弁護士ドットコムニュースさんに記事を書かせて頂きました。



(記事URL: https://www.bengo4.com/c_4/n_4738/

以下は記事内容です。

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印鑑を押す代わりに「花押(かおう)」を記した遺言書の有効性が争われていた事件で、最高裁第二小法廷は6月3日、遺言書を「無効」とする初判断を示した。

判決文によると、最高裁は「遺言書に押印を必要とする理由は、印を押すことにより重要な文書の作成を完結するという慣行や意識が社会の中にあることがその1つである」が、「文書の作成を花押によって完結するという慣行や意識があるとは認めがたい」として、遺言書は無効であると判断し、福岡高裁に審理のやり直しを命じた。

そもそも「花押」とは何か。また、なぜ最高裁は遺言書を無効としたのか。加藤尚憲弁護士に聞いた。

●歴史上はよく使われていた「花押」


「時代劇などで戦国武将の手紙が出てくる時に、最後にサインのようなものが描いてあることがありますね。あれが『花押』です。

『花押』は、江戸時代には廃れてしまったようで、現代ではほとんど用いられていません。一般に知られている例としてはわずかに閣僚が閣議書に署名する際に用いられている位ですので、沖縄で実際に遺言書に用いられたと聞いて、私も大変驚きました」

それでは、花押が書かれた遺言書について、これまで裁判所はどのように判断してきたのだろうか。

「この裁判の下級審である那覇地方裁判所と福岡高等裁判所那覇支部は、いずれも遺言を『有効』と判断していますが、花押を記した遺言の有効性に関する裁判例はおそらく他には存在しないものと思います。今回の最高裁の判断は、これらの下級審の判断を覆すものになりました」

●最高裁での逆転判決。その理由は?


なぜ、最高裁は下級審の判断を覆したのか。

「今回の判決は、平成元年2月16日最高裁判決(第一小法廷)を引用しています。この判決は、印鑑の代わりに指印を押した遺言書の効力が争われた事案でした。

平成元年判決は、『遺言書に押印を必要とする理由は、印を押すことにより重要な文書の作成を完結するという慣行や意識が社会の中にあることがその1つである』という趣旨の指摘をした上で、指印を印鑑の代わりに用いる慣行が社会一般に存在することを根拠に、遺言書を『有効』と判断しました」

●「指印」の場合とは逆の結論を出した最高裁


「これに対し、今回の判決は、花押を印鑑の代わりに使用して文書を完成させるという慣行や意識が社会の中にあるとは言いがたいことから、遺言を『無効』と判断しました。

つまり、指印と花押とでは、社会の中で用いられる頻度が全く異なることから、今回の判決は、平成元年判決と同じ判断基準で、逆の結論を導いたのです」

●「実務への影響はほとんどない」


今回の判決は、今後どのような影響を与えるだろうか。

「そもそも、花押を遺言書に記載するということ自体、現代ではほとんど用いられていないことから、今後同様のケースが起きる可能性は極めて低いでしょう。実務への影響はほとんどないと思われます」

●遺言書は公正証書でトラブルを防ぐ


「なお、自筆で作成した遺言書は、今回のケースのように形式の不備により無効になるケースが後を絶ちません。また、自筆の遺言書は、本物であるかどうかなど無用な争いを誘発することがあります。遺言書を作成するときは専門家に相談の上、必ず公正証書にすることをお勧めします」
加藤弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

2016年6月3日金曜日

(続々)「花押」による遺言書は有効か(判決速報)

当ブログで2度にわたって取り上げてきた「花押」による遺言書の有効性に関する最高裁判決(最高裁平成28年6月3日第二小法廷判決)がついに出ました。

大方の予想通り、最高裁はこれまでの下級審判決を覆し、「花押」による遺言書を無効とする判断を下しました。

以下は判決文の引用です

------------引用ここから


花押を書くことは、印章による押印とは異なるから、民法968条1項の押印の 要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。

そして、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及 び氏名の自書のほかに、押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあい まって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者 が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が 国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるとこ ろ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民 集43巻2号45頁参照)、我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難 い。

以上によれば、花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。 

-------------引用ここまで
(出典:最高裁ウェブサイト

判決文は、押印するという行為について、「文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識がある」とする一方、「我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難 い」として、花押による遺言書の効力を否定しています。

ところで、これまでの裁判例としては、最高裁が拇印による遺言書を有効と判断した例があります(最高裁平成元年2月16日判決)。

---------引用ここから

自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、右押印について指印をもって足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日附、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである。
(下線は筆者)
------引用ここまで

このように、平成元年判決も「我が国の慣行ないし法意識」を基準に判断しており、今回の判決は、平成元年の判断基準を踏襲しながら、拇印とは逆の結論を導いたことになります。

簡単に言うと、拇印は一般的に印鑑の代わりとして用いられているのに対し、花押は一般的に使用されているとは言い難い、という点が拇印と花押とで結論を分けることになったものと思われます。

当ブログでは、これまで2回にわたり、下級審判決に疑問を投げかけてまいりました。

その理由は、花押は手で書くものであるため、印鑑とは本質的に異なるものであるというものでした。

ロジックはやや異なりますが、最高裁判決の結論に賛成したいと思います。

【関連するブログ記事】
「花押」による遺言は有効か
(続)「花押」による遺言は有効か