東京西法律事務所

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2014年5月8日木曜日

筆跡鑑定の真実(後編)

筆跡鑑定について、前編(筆跡鑑定の簡単な紹介と面白い「筆順」について)、中編(筆跡鑑定を依頼する立場からのポイント)の2回にわたって解説をしてきました。

さて後編では、筆跡鑑定がどのように訴訟の場で扱われているか、という話をします。

これまでずっと筆跡鑑定について語ってきて、このような話をすると、本ブログ読者の皆さんは「ずっこける」かもしれませんが、実は、筆跡鑑定は、訴訟の場では必ずしも信用されていないんです。

もちろん、全く信用されていないという訳でもないし、実際に裁判の場で利用されてもいるのですが、一般的なイメージとは違って、必ずしも筆跡鑑定は「決め手の証拠」と捉えられていません。

先日、とあるブログがツイッターで話題になりました。


早速このツイートで取り上げられているブログを拝見すると...

-----以下引用--------
まず、裁判所は、筆跡は、ほとんど参考にしない。
依頼者や相談者が、弁護士に偽造を主張する最大の根拠は、たいてい、この筆跡である。しかし、裁判所は、筆跡を重視しない。というか、ほとんど無視する。筆跡などは、時と場合によってころころ変わるばかりか、偽造する場合などは、本人の筆跡に似せて作成するから、筆跡を対比する意味などない。筆跡など意味がないと考えるのだ。
-----引用ここまで----
(出典:自筆証書遺言「偽造」問題について裁判所は、どのように判断するか 離婚専門・遺産相続弁護士の日々雑感/ウェブリブログ)
 http://tb.bblog.biglobe.ne.jp/ap/tb/3f5ff8859f

また、このブログの感想として、以下のツイートもありました。




私も、上記ツイートと同じ印象を持っています。つまり、「裁判所は、筆跡は、ほとんど参考にしない」という言い方はやや強過ぎるものの(実際に、先日も筆跡鑑定の申立をしたところ、スムーズに採用されています)、おおむねこのブログのおっしゃっていることは正しく、実態として、裁判所は筆跡鑑定を重視していないのです。

その理由は、上記ブログにも取り上げられているのですが、鑑定が必ずしも正確になされないからです。もっと言うと、(裁判所を通さずに鑑定を依頼した場合)鑑定の依頼者に迎合するような鑑定が横行しているからなのです。

その結果、世間一般に、結論が異なる鑑定書が、双方の当事者から証拠として裁判所に提出されるということが起きてしまうのです。

そこで裁判所は、いい加減な鑑定書に騙されないように、筆跡鑑定の結果以外の事実を重視するのです。例えば、①遺言書が発見された経緯に不自然な点がないか、②遺言書の中身が遺言者の普段の言動と一致しているか、③過去に別の遺言書を残していた場合は、過去からの変動について明確な理由があるか、といった事情を考慮します。

そういう訳で、筆跡鑑定で望む結果が出ればOKか、というと決してそうではなく、裁判に勝つためには事案に応じて色々と立証の工夫をしていく必要があるのです。

なお、世の中には、真面目にやっている鑑定人も沢山いらっしゃると思います。前編で取り上げた吉田公一氏の著書を読んでも、真摯に鑑定に取り組んでいらっしゃる様子が伝わってきます。また、以前、ある鑑定士さんに簡易鑑定をお願いしたときは、意に沿わない内容を率直に教えて頂きました。私は、そういう真面目な鑑定士さんが増え、筆跡鑑定の信用性が向上することを願っています。
なお、筆跡鑑定を利用する立場からも、意に沿わない結果が出たときには、プロの判断を尊重し、きちんと受け止めることが大切であると考えています。

さて、筆跡鑑定について3回にわたって連載してきましたが、若干書き足りないところもありますので、特別編と題して、実際にあった「あの有名な事件」について書く予定です。乞うご期待!


【関連する本サイトの記事】
5-2-5 遺言無効確認訴訟