本日は、これらの記事で取り上げなかった「限定承認と相続放棄の合わせ技」について触れたいと思います。
まず話の始めに民法923条を見てみましょう。
(共同相続人の限定承認)
限定承認は「相続人の全員」が共同してのみ(つまり、相続人全員が揃ってはじめて)することができると書いてありますね。実際にも、良くそのように説明されていますし、私も学生の頃はそう習いました。
でも、現場ではこれは必ずしも本当じゃないのです。
どういうことかというと、「限定承認」と「相続放棄」を組み合わせて、一部の相続人が相続放棄をし、残りの人が限定承認をする、ということができるのです。
「え?だってさっき『全員が共同してのみ』って書いてあったでしょ?法律違反じゃないの?」
とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、別の条文があるのです。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続人の一部の人が相続放棄をすると、限定承認との関係でも、相続放棄をした人は、相続人でなかったものとみなされます。
つまり、残りの相続人だけが「相続人の全員」になるので、残りの人全員で限定承認をすれば良いことになるのです。
何だか、マジックのような理屈ですね。
でも、実際にそう考えられていますし、その背景には、「相続放棄したい人まで限定承認の手続に巻き込む実益がない」という判断があるように思います。
では、次に、「どんな目的で、わざわざ限定承認と相続放棄を組み合わせるの?」という疑問が湧いてくるかもしれません。
その疑問には、後編でお答えします。