前編では、筆跡鑑定の入り口として、「筆順」による判断方法を紹介しました。
ここからは、役立つ情報として、筆跡鑑定を依頼する際のポイントを解説します。
さて、筆跡鑑定は、一般に誤解されがちなところがありますが、誤解したまま依頼すると失敗することがあります。
失敗を避けるために、ありがちな誤解と、正しい理解を挙げてみました。
①鑑定人の意見の対象
×誤解 鑑定人は、「ある文書を本人が書いたものか」について教えてくれる。
○正解 鑑定人は、「『ある文書』と『別の文書』を同じ人が書いたのか」について教えてくれる。
筆跡鑑定では、複数の文書を比較し、それらを同じ人が書いたのかどうかを調べます。
従って、筆跡鑑定を行うためには、比較対照用の文書が必要です(これを「対照資料」といいます)。
しかし、鑑定人には、対照資料を誰が書いたのかまでは分かりません。
従って、対照資料は、本人が書いたことが明らかであるもの(例えば、第三者の面前で自署したとか、パスポートのサインなど文書の性質上本人が書いたことが間違いないと思われるもの)であることが必要です。
②文字の種類
×誤解 筆跡鑑定では、本人が書いたものなら違う文字でも筆跡が同じかどうかわかる。
○正解 筆跡鑑定では、同じ文字同士を比較する必要がある。
違う文字同士ではなかなか比較は難しいようです。対照資料を探すときは、同じ文字があるものを探しましょう。
もっとも、自筆証書遺言には必ず氏名が書かれていますし、氏名が書かれている対照資料は比較的見つけやすいです。
③コピーの鑑定
×誤解 コピーと直筆は同じ筆跡だから、鑑定資料や対照資料はコピーでもまったく問題がない。
○正解 鑑定資料や対照資料は、直筆が原則である。
コピーの際に、こまかなインクの走りが消えることもあります。また、筆圧でできた紙の凹凸などはなくなります。
従って、筆跡鑑定の際の資料は、原則として、直筆のものを使用します。コピーがある場合も、なるべくコピー元の直筆を探して下さい。
もっとも、多くの鑑定人は、コピーでも鑑定自体は行ってくれます。
④対照文書の古さ
×誤解 対照資料はいつ書いたものでも構わない。
○正解 対照資料は、鑑定文書となるべく同時期に書かれたものが望ましい。
筆跡は、同じ人でも年の経過とともに変わっていきます。
従って、対照資料は、鑑定資料の前後5年以内くらいに書かれたものが望ましいようです。
最後に、筆跡鑑定の費用と期間について触れます。
正式鑑定の場合、費用は30万円~、期間は1ヶ月くらいが目安です。
ただし、裁判所を通さない鑑定の場合、いわゆる簡易(予備)鑑定をしてくれる鑑定人がいます。
簡易(予備)鑑定とは、鑑定書を作らずに、結論だけを口頭で教えてくれるというものです。
これだと、期間は1週間程度、費用は数万円で済みます。
簡易(予備)鑑定は、鑑定書を作成しない以上、証拠にはなりませんが、あらかじめ結論を知っておけば、高額な費用を負担して無駄な鑑定依頼を行うことを避けることができます。
後編では、弁護士のブログらしく(!)、訴訟の現場で、筆跡鑑定がどのように利用されているかについて触れます。
ちょっと、これまでの話の流れとは違う話です。
【関連する本サイトの記事】
5-2-5 遺言無効確認訴訟