「当然でしょ」と答えるかもしれませんね。
ところが、びっくりされる方も多いと思いますが、現金と違い、預貯金は原則として遺産分割の対象ではないのです。
預貯金は、金融機関に対して、「預けたお金を返してください」と求めることができる権利です。法律上、このような権利を「債権」と呼びます。
これまで、最高裁判例では、相続の際、金銭債権は、法定相続分に従い当然に分割されることとされていました(最高裁平成16年4月20日判決)。
つまり、遺産分割が成立していなくても、相続人は、金融機関に対して相続分に従った預貯金の支払いを求めることができるのです。
このように、「預貯金は、相続によって当然に分割されるものである以上、遺産分割の対象ではない」ということが論理的な帰結になります。
もっとも、現実には預貯金を遺産分割の対象にしていることが一般的なのですが、これは当然のことではなく、あくまで預貯金を遺産分割の対象にすることについて、相続人全員が合意して行っているからにすぎません。
逆に言うと、家庭裁判所で遺産分割調停を行う際に、預貯金を遺産分割の対象とすることについて、相続人の間で合意が成立しない場合は、裁判所は預貯金について調停の対象とはしていません。このような実務上の取り扱いも、上記の最高裁判例が存在しているからなのです。
ところが、本日の報道によりますと、この判例が覆される可能性が出てきました。
---引用ここから
「預金は対象外」判例変更へ=遺産分割審判で大法廷回付-最高裁
遺産分割をめぐる審判の許可抗告審で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は23日、審理を15人の裁判官全員で行う大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付した。預金は遺産分割の対象外とする根拠となっている最高裁判例は、実務との隔たりが指摘されており、見直すとみられる。大法廷に回付されたのは、遺族の1人が別の遺族に対し、約3800万円の預金などの遺産分割を求めた審判。一審大阪家裁と二審大阪高裁は、遺族間の合意がない場合、預金は分割できないと判断した。(2016/03/23-17:27)
---引用ここまで (引用元:時事通信社 時事ドットコム)
上記の通り、この最高裁判例は、実務上の取り扱いの根幹を成している極めて重要なものです。
判例変更が実現した場合、実務への影響はかなり大きなものになることが予想されます。また、ケースによっては、従来の判例に従った場合と比較して、相続人に損得の違いが発生することが考えられます。
本ブログでは、どのような変化があり得るかについて、このエントリーの続編としてケース別に分析することを予定しております。お楽しみに。
(追記)
本件についても、本日(3月24日)弁護士ドットコムニュース編集部様から原稿のご依頼を頂きましたので、メディアにて掲載予定となりました。掲載予定日との兼ね合いで、本ブログでの発表とどちらが先になるかは未定です。