東京西法律事務所

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2016年12月19日月曜日

実務に大激震! 預貯金の相続に関する判例変更について(速報)

本日(12月19日)、預貯金は(相続人間の合意の有無に関わらず)遺産分割の対象となるとの最高裁大法廷の決定がなされました。

決定全文はこちら↓
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf


この判例変更は、予想されていたことではありますが、相続の実務に携わる者の1人として、一言コメントせずに一日を終えることはできないと感じられるほど、インパクトが大きいものです。

従来の判例の内容や、前提となる話は、以前、本ブログや弁護士ドットコムニュースさんに寄稿させて頂いた記事で触れておりますので、こちらをご覧いただければと思います。

http://wakarusouzoku.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

https://www.bengo4.com/c_4/c_1050/n_4543/

本稿では、決定文を踏まえ、判例変更が実務に与える影響について、以下具体的に考察したいと思います。

なお、あくまで速報ベースであるため、理由が簡潔なものとなることはご了承ください。

①預貯金以外の債権が遺産分割の対象となるか(判例の射程)
[結論] 否定
[理由] 指名債権など、預貯金以外の金銭債権が遺産分割の対象となるかについて、本決定は明確に述べておりません。

しかしながら、本判決の判決理由では、実務上、預貯金が相続人の合意のもとで遺産分割の対象とされていること、(従来から遺産分割の対象とされて来た)現金と余り変わらないものとして一般に認識されていること、預貯金を遺産分割の対象とすることが相続人間の調整に資することなど、預貯金特有の理由を挙げていることからすると、預貯金以外の債権については、従来と同様、遺産分割の対象にならない可能性が高いものと考えられます。

②金融機関は遺産分割の成立まで相続人からの支払を拒むことができるか(債務者への影響)
[結論] 肯定
[理由] 本決定はあくまで相続人間の訴訟の事案に関するものですが、判決理由が預貯金債権について相続人が準共有すると述べ、相続時の当然分割を否定している以上、今後は金融機関は相続人単独での預金の引き出しを拒みうる立場にあるものと考えられます。

この点は、実務上は、相続人単独での預金の引き出しを拒み続けていた金融機関もありましたが、本決定はこの取り扱いにお墨付きを与えたものと言うことができると考えられます。

③過去の遺産分割への影響(遡及的効果)
[結論] 不透明
[理由] 本決定は、従来の判例を前提としてすでに成立した遺産分割については、何も触れておりません。

そこで、従来の判例を前提に遺産分割を行なった当事者が錯誤による無効を主張したらどうなるのか、という懸念はあります。

一般的に、すでに終わったはずの相続の蒸し返しを行うことは相当とは言えない場合が多いでしょう。

しかしながら、決定理由を見る限り、過去の遺産分割については効力を維持するとの理由は見出し難いところです。

もっとも、動機の錯誤が認められる場合(=動機の表示があった場合)が限られているため、そもそも錯誤の成立が裁判上認められる場合は非常に限られているとは思われますが、そのような可能性が完全に排斥されている訳でもない点は留意しておきたいと思います。

この点において、本決定は、非嫡出子に対する相続分の差別的取扱いを行なっていた民法の規定(当時)を違憲とした際の判例変更とは事情が異なっているように思われます。

以上は、もちろんのこと、一人の実務家の私見に過ぎません。また、私自身、分析が甘い点があるかもしれません。

本件判例を巡っては、今後半年程度は研究者から論考の発表が相次ぐものと思われますので、注目して行きたいと思います。