東京西法律事務所

このブログは東京西法律事務所(中央線・荻窪駅徒歩2分)が運営しています。ご相談のご予約は0120-819-674(はい、苦労なし)まで。土日・夜間のご相談も受け付けております。当事務所ホームページへのリンクはこちらをクリック

2016年6月3日金曜日

(続々)「花押」による遺言書は有効か(判決速報)

当ブログで2度にわたって取り上げてきた「花押」による遺言書の有効性に関する最高裁判決(最高裁平成28年6月3日第二小法廷判決)がついに出ました。

大方の予想通り、最高裁はこれまでの下級審判決を覆し、「花押」による遺言書を無効とする判断を下しました。

以下は判決文の引用です

------------引用ここから


花押を書くことは、印章による押印とは異なるから、民法968条1項の押印の 要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。

そして、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及 び氏名の自書のほかに、押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあい まって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者 が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が 国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるとこ ろ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民 集43巻2号45頁参照)、我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難 い。

以上によれば、花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。 

-------------引用ここまで
(出典:最高裁ウェブサイト

判決文は、押印するという行為について、「文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識がある」とする一方、「我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難 い」として、花押による遺言書の効力を否定しています。

ところで、これまでの裁判例としては、最高裁が拇印による遺言書を有効と判断した例があります(最高裁平成元年2月16日判決)。

---------引用ここから

自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、右押印について指印をもって足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日附、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである。
(下線は筆者)
------引用ここまで

このように、平成元年判決も「我が国の慣行ないし法意識」を基準に判断しており、今回の判決は、平成元年の判断基準を踏襲しながら、拇印とは逆の結論を導いたことになります。

簡単に言うと、拇印は一般的に印鑑の代わりとして用いられているのに対し、花押は一般的に使用されているとは言い難い、という点が拇印と花押とで結論を分けることになったものと思われます。

当ブログでは、これまで2回にわたり、下級審判決に疑問を投げかけてまいりました。

その理由は、花押は手で書くものであるため、印鑑とは本質的に異なるものであるというものでした。

ロジックはやや異なりますが、最高裁判決の結論に賛成したいと思います。

【関連するブログ記事】
「花押」による遺言は有効か
(続)「花押」による遺言は有効か