引き続き、限定承認の「使い途」について説明します。
次のような場合には、限定承認には、相続放棄や単純承認にはないメリットがあります。
①潜在債務の相続を回避したい場合
どれだけ調査しても、まだ見つかっていない債務があるかもしれない、という場合があります。
例えば、被相続人(即ち亡くなった方)が、会社経営を行っていた場合、会社の債務を個人として連帯保証していることが良くあります。
しかし、保証債務は、通常は債務として余り意識されておらず、調査してもすぐには見つからないこともあります。
このような場合、相続を単純承認するにはリスクがあり、かといって放棄するのはもったいないため、限定承認が適しています。
②「先買権」を行使したい場合
「先買権」とは、限定承認を行った後、相続財産の中に相続人にとってどうしても手元に残したいもの(例:自宅など)があるときに、相続人が、その財産の価値に見合った金額を支払うことにより、その財産を手に入れることができる権利(一種の優先的購入権)をいいます。
本来、限定承認を選択した場合、相続財産はすべて競売され、代金が債権者への弁済に充てられますが、先買権を行使すれば、手放したくない財産を選んで確保することができます。
先買権は、限定承認だけに認められた制度であり、どうしても確保したい財産がある場合には、限定承認が有力な選択肢となります。
なお、たとえ消極財産が積極財産を上回っている(すなわち債務超過)ことが明らかな場合でも、先買権を行使するために限定承認を申し立てることは可能です。
ところで、先買権を行使するためには、裁判所に鑑定人を選任してもらう必要があります。これは、もともと稀な限定承認の中でも更にレアケースで、平成24年の司法統計では、たった76件しか申し立てられておりません。私は、昨年1件を取り扱いましたが、裁判所の担当書記官にも馴染みがなく、当方から参考文献をコピーして送付してあげた思い出があります。
後編では、実際に限定承認を行う際に、どれくらいの期間がかかるかについて書きます。